DATE 2008. 8.28 NO .



(さすがにこいつらはさっきのようにはいかない…か)

 助言を与えてやる暇は、あまりない。ただひたすら組み手をこなしていた。
 数は多い。だが、殺気がない。まぁ殺気を向けられても困るが、どこか遠慮がちにかかってくるせいか、余裕はあった。

(その点、何をしてくるかわからない子供の方が扱いの難しい時もあるよな……)

 風を切る音が耳に届く。

「その調子だ、どんどん来いっ!!」

 懐の刀を抜いて、背後から飛んできたくないを全て叩き落とす。
 上体を捻ったその時、視界にリディアが映った。いつの間にか移動していたらしい。

(あいつ、何してるんだ…?)

 その間にも、また何人かがかかってくる。それをあしらいながら、揺れる翠の髪を目で追った。子供達が何かをしている辺りまで歩いて行って、目線に合わせてしゃがみこむ。話し声は、聞こえない。

 その光景に、鈍く光る刀が割って入る。
 同時に、黒魔法の発動音。

「な……っ!?」

 向かってきた刀を弾き返した先に見えたのは、巨大な氷柱。俺を囲んでいた者達も皆、あっけにとられた様子でそれを見上げている。
 子供達はというと、歓声をあげて氷柱を取り囲み、それから皆揃って印を結び始めた。

「「火遁!!」」

 あぁ、練習台か。
 それに、はっきりとした目標を定めると、力を集中させやすくなる。忍術の修行に明け暮れた幼い頃を思い出して、うまい事考えたもんだ、と思った。

 何人かはすぐに炎が出せたようだ。リディアに駆け寄って何かを話している。

 子供達の頭に、リディアの手がのびた。


『ほら、いい子いい子』


 リディアの声が、聞こえた気がした。


『ガキはいい子でお留守番してな…』


 今も、リディアの頭はちょうどいい高さにある。
 それでも、記憶の中でずっと変わらず笑っていた少女が大人になった事に気づいたあの日以来。

(ま、もう無理だよな)

 当たり前の事を、実感するようになった。

「…一通り見た感想だけどな」

 輪を抜け、氷柱を背にして向き直る。

「まず、膂力の足りない奴が多い。忍に必要なのはスピードや身の軽さだが、自分の身も守れなくてどうする。それから……」

 皆片膝をついて、じっと俺の言葉を聞いていた。

「――見ていられた範囲では、これだけだ。観察している暇があまりなかったからな…皆、よく鍛錬を積んでいると思う。家族を守ってやりたきゃ、これからもこの調子でな」

「「「はっ!」」」

 見事に揃った声。この辺りは、じいが声を枯らした成果か。それとも、あいつらか。

「…さて、と」

 リディアに負けるわけにはいかないからな。

「ついでにもうひとつ見てやるよ」

 片手で、立つように促す。

「各々何をやってもいいから、とりあえず防いでみろ。避けてもいいぞ」

 城も氷柱と同じく背後。ま、大丈夫だろ。

「――俺、忍術なしなんて一言も言わなかった、よな…!」





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